昭和は遠くなりにけり

古代に思いを馳せ、現在に雑言す。・案山子の落書・

♪.昭和は遠くなりにけり。

 江戸に三代住めば立派な江戸っ子だそうですが、私はこのブログで三回目です。そうしますと、私も立派なブログっ子ということになるわけですかな。
 しかし、立派な江戸っ子にしろブログっ子にしろ老いぼれては立つの落とし子ならぬ立たないお年寄り子というわけですな-。つまらんことですな-
 チョット、チンポイ放送でも聞いてみますか。確か、葛城山彦と御隠居さんとの話が始まっていると思いますが。

☊.......................................................................................................................................☊

「葛城村に住んで、私で三代目」
「私もそろそろ立派な葛城村っ子ということになります」

  --☏--

「ホウ、もうそんなになるのかのう」
「ワシなんぞ何代目になのるか、数えたこともないがのう」
「なにせ、こんな村では何代住もうと田舎っぺであることに変わりはないけにのう」
「そうそう昔の事じゃが、確か、よそへ行くぞう とかなんとかいう名の歌手が、オラこんな村イヤだとか歌っておったが」
「思うに、あの頃のワシも よそへ行くぞう じゃったかいのう」

「うーん、それが何で未だ葛城村に住んでいるのかって」
「うん、それはのう、これも随分と昔のことじゃが」
「あれは暑い暑い夏の日のことじゃったが、ほれ落語家に三遊亭円楽という人がおるじゃろ」
「その三遊亭円楽師匠がこの村に来たことがあったんじゃよ」
「いやいや、今の黒円楽師匠ではなく、先代の円楽さんのことじゃよ」
「それにしても今の円楽師匠は色が黒いのう、なんでも腹はもっと黒いとか」

「何、腹が黒いとどうなるかて」
「うーん、そうよのう腹は黒うても頭の中は真っ白つう奴も居るけにのう」
「それに、俗に背に腹はかえられんとも言うが」
「もしかしたら黒円楽師匠の場合、かえられるぐらい背中も黒いんとちがうんやろか」

「マア、それはともかくとしてじゃ」
「先代の円楽師匠がこの村に来たんじゃよ」
「ただのう、来てくれたのは好いんじゃが、師匠ときたら江戸っ子の自慢ばかりするんでのう」
「そいでワシャ次のように言い返してやったでナアー」
「円楽さんヨウ、江戸っ子の自慢ばかりしとるがのう、落語に出てくる江戸っ子は与太郎から始めて隠居までみんな馬鹿ばっかりとちがうんけ」
「と、まあそんなふうにな」
「そしたら円楽師匠、扇子で頭をピシャリとやり、イヤまいりましたと言って汗を拭き拭き帰って行きおった」
「引き時を心得た立派な御仁じゃったが,良い後継者には恵まれなかったかのう…」

「マア、それはそれとしてじゃ」
「あの日は本当に暑い日じゃった」
「確か、あの頃の葛城村には朝に一往復、夕に一往復のバスの便があっただけでのう」
「円楽師匠、バス停で何時間もまっとったんじゃなかろうかのう」
「それにつけて思うことじゃが、円楽さんが色の黒い楽太郎に跡を継がせたのは葛城村での出来事を戒めとするためじゃなかったかのうとなあ」
「なにせ、バス停で何時間もまっとったら日焼けして真っ黒になってしまうけのう」
「本当にあの日は暑い日じゃったきに」

「アッそうじゃ、与太郎と言えば『与太郎戦記』の春風亭柳昇師匠がおったけのう」
「ワシャ子供の頃この師匠が とんち教室 つう番組でとちるのをよう聞いとったが」
「アリャ、でっぱなの決まり文句の自己紹介でもうとちっておったがのう」
「なんでも 元へ とか何とか言ってやり直しておったが、ワシャ未だにこの御仁がなんで とんち教室 に出とったんかがよう分からん」
「なにせあの頃 とんち と言えば一休さんしか思い出さんかったきに」
「そいでもって とんち教室 とくれば一休さんみたいなのばっかりの集まりと思うとったきに」

「そうそう、一休さんといえば桂歌丸師匠の頭が一休さんみたいやったかのう」
「なんやて、頭の一休さん林家木久扇やて」
「あんなあー、林家木久扇師匠の頭は一休やのうて全休や」
「あの御仁の頭の中はなあラーメンのようにこんがらかってて、ところどころにナルトが渦を巻いとるつう話や」
「それにしてもお前はん昇天を見とるんやのう」
「なに、昇天やのうて笑点やろて」
「あんなあー、春風亭昇太師匠様が司会をおやらりりになられれるようになりりましててからはのう、笑点ではのうて昇天におななりにならられたんでございまっせ」
「そこでじゃ、ちょっとしたとんち教室なんじゃが」
「昇太の太の字じゃが、これは大の字に点じゃ、点は天じゃからこれを上に持ってくると太の字が天の字になる」
「ほいでもって、昇太が昇天になるちゅうわけよ」

「なんでも昇太さんを司会者に推したのは歌丸師匠ということなんじゃが」
「やっぱ、歌丸師匠は一休さんじゃたんじゃのう」
「その歌丸師匠もつい最近なくなられたそうじゃが、正に大昇天じゃったということかのう」
「思うに、歌丸さんが後任の司会者に黒円楽ではなく昇太を推したのは、黒円楽に真人間になってもらって昇天させてやろうという歌丸さんの親心だったんじゃろのう」
「うん、まあな、というのは表向きの話じゃが」
「実際は、円楽さんが政治批判をやるのが司会者として不都合じゃったんじゃろう」
「それに円楽が司会をやったんでは政治批判で答える者がおらんようになるでなあー」
歌丸さんとしては政治批判も大事じゃったんじゃろ、現に円楽さんの政治批判にはいつも座布団をやっとたでな」
「落語だけでは世の中良くならん、政治批判が大切、歌丸さんはそう思っとったんじゃろな」

「さて、その歌丸さんも死んでしまいおった」
「昭和はますます遠退くのう」
「来年には年号(元号)が変わるそうじゃが、これでワシも昭和、平成、そして次の年号と年号を三代生きることになるのじゃが、年号三代を生きると何っ子になるんけのう」
「年号っ子かそれとも元号っ子か、どっちかのう」
元号っ子 じゃと元興寺(がんごうじ)にちかくなるんじゃが」
「がんごうじ つうのは、ワシらが子供の頃のお化けのことで確か がんごうじ ではなくがんごうち と言っておったかナァー」
「マア、いずれにしてもお化けのことなんじゃが、やっぱお化けになるんかのう」

「何、それよりも葛城村にずっと住んどる訳はどうなっているのかって」
「そうじゃじゃのう、あれも暑い暑い夏の日のことじゃった」
「ワシャ東京までの運賃を持ってバス停でまっとった」
「なんせ前の夜は熱帯夜でのう、なかなか寝つけんかったんじゃ、そいで朝のバスに乗り遅れたんじゃよ」
「なにせ、暑い暑い夏の日の昼下がりのことじゃ、待っとるだけで喉が渇いてしもうた」
「そいでなんか飲もうと思って、バス停の向かいの駄菓子屋に行ったんじゃよ」
「そしたら、キャリーピャムピャムちゃんがサイダー飲んどる看板がかかっておった」
「それにしても、キャリーちゃんはいつ見ても可愛いのう」

「うん、マアそいでもってじゃ、サイダーを飲もうと思って店の戸を開けたんじゃよ」
「そしたら涼しい空気と一緒に守屋浩の歌が聞こえてきおった」
「ここの婆さんは守屋浩の大ファンでなあ、朝から晩まで守屋浩の歌ばかりをかけとるんじゃよ」
「戸を閉めてお婆って呼ぶと、有難や有難や の歌に合わせてお婆が仏頂面さげて出てきおった」
「そいで、サイダーくれと言おうとした時、守屋浩と本間千代子が美味しそうにビールを飲んどるポスターが目に入ったんじゃよ」
「で、ビールくれって言ってしもうたんじゃ」
「その頃のビールは高かったんじゃが、お婆が栓を開けるのも早かった」
「グラスにビールがとくとくと注がれ、こぼれんばかりにグラスに泡が盛り上がっていきおった」
「生唾と一緒にそいつを一気に飲み干すと、体中の毛穴から汗が吹き飛んでいった」
「その時じゃ、守屋浩の 泣いちっち の歌が聞こえたんじゃよ」
「僕も行こうあの娘の住んでる東京へ という歌がな」

「その時、ワシャ何もかも分かってしもうたんじゃよ」
「東京には何も無いということがな」
「東京にはワシを待っていてくれるあの娘もいなければ、キャリーちゃんもいない」
「この村と同じじゃとな」
「そいでワシャ決心したんじゃ」
「この村で がんごうち になろうとな、三遊亭小遊三になろうとな」

「なんで三遊亭小遊三かて」
「実はな、小遊三師匠とはその昔自動販売機の下で百円を争うた仲なんじゃよ」
「それにしても、最近の自動販売機の下、百円玉はおろか十円玉も落ちとらん」
「ほんに、昭和は遠くなりにけりやなあ」

・∙∙∙∙∙∙ ❣ ∙∙∙∙∙∙・

 皆様。自動販売機の下で百円を拾えなかった皆様、
せめて例の呪文を拾いましょう。

 けっこうけだらけ ねこはいだらけ
        チチンプイプイ たむろっど

結構でございました。